紳士淑女の皆様方、こんばんは。
ヘミングウェイの『老人と海』の記事内で軽く触れた失われた世代(ロスト・ジェネレーション)。
彼らの存在や呼ばれることになったきっかけなど、簡潔にですが話してみようと思います。
Contents
ロストジェネレーションとは?
Lost Generation:”失われた世代“というのが最も有名な翻訳ですが、”迷える世代“、”喪失の世代“、”幻滅の世代“と訳されることもあります。
本来はヘミングウェイ、フィッツジェラルド、フォークナーなどの第一次世界大戦後に活躍した米国人作家達の世代のことを指しています。
ヘミングウェイの『日はまた昇る』の作品内で、実在する女流小説家ガートルード=スタインがパリで
「You are all a lost generation.(あなた方は失われた世代(ロスト・ジェネレーション)ね。)」
と発したのが、彼らがそう呼ばれる由来です。
彼らは、第一次世界大戦への従軍経験があり、その経験から思想や宗教や道徳への既成概念に疑問を提示し、新たな生き方を追求しています。
ロスト・ジェネレーションは第一次世界大戦だけでなく、世界大恐慌や第二次世界大戦も経験しており、貧乏くじ世代と言われることもあります。
第一次世界大戦で彼らの青春時代は奪われ、その後の生涯も幾度となく襲い来る不幸により絶望と虚無を与えられました。
彼らの社会の風潮に反抗し、自らの文体も思想であるという姿勢は彼らが優れた文学者と呼ばれる理由でもあります。
現代の日本ではバブル崩壊後10年間の、就職氷河期時代を体験した人々に対して使われることもありますが、今回は米国作家達についてです。
人物
ロスト・ジェネレーション
ヘミングウェイ
アーネスト・ミラー・ヘミングウェイ(Ernest Miller Hemingway)
アメリカの作家で1954年にノーベル文学賞を受賞しています。
アメリカ人らしいライフスタイルで”パパ・ヘミングウェイ“と親しまれていました。
代表作:『老人と海』『日はまた昇る』『武器よさらば』『誰がために鐘は鳴る』
フィッツジェラルド
フランシス・スコット・キー・フィッツジェラルド(Francis Scott Key Fitzgerald)
アメリカの狂乱の時代『ジャズ・エイジ』を描いたことで有名です。
世界大恐慌の時代による絶望によりアルコールに溺れるようになり、死因もアルコールの不摂生からくる心臓麻痺によるものでした。
代表作:『楽園のこちら側』『偉大なるギャツビー』『夜はやさし』
ドス・パソス
ジョン・ロデリーゴ・ドス・パソス(John Roderigo Dos Passos)
小説家、画家として活躍
元々は熱烈な共産党の支持者でしたが、度重なる政策転換などから不信感を抱き、後年には共和党を支持することで世間を驚かせました。
反ファシズム文化運動の発起人としても知られています。
代表作:『3人の兵士』『U.S.A.』『ある青年の冒険』
フォークナー
ウィリアム・カスバート・フォークナー(William Cuthbert Faulkner)
アメリカの巨匠
1949年度にノーベル文学賞を受賞しています。
複数の作品に同一人物を再登場させる手法を、彼の物語の中の地名から取り、『ヨクナパトーファ・サーガ』と呼びます。
代表作:『響きと怒り』『サンクチュアリ』『八月の光』『アブサロム、アブサロム!』
カミングズ
カミングズ(Cummings)
詩人、小説家、画家として活躍
従軍時代のスパイ嫌疑がかけられ、監禁された経験から生まれた『巨大な部屋』は、小説とも詩ともとれない実験的な手法から「アメリカ人が書いた最高の戦争小説」とも呼ばれています。
代表作:『&』『1925年』『Is 5』『1926年』『チューリップと煙突』
カウリー
マルカウ・カウリー(Malcolm Cowley)
アメリカの詩人、批評家
マルキシズムに傾倒し、政治的なエッセイも多く残していますが、彼の最も偉大な功績はフォークナーの作品の編集だと言われています。
代表作:『亡命者の帰還』『ポータブル・フォークナー』
影響を与えたモダニスト作家
第一次世界大戦に勝利したアメリカは経済的に余裕が生まれ、国民達の関心は娯楽と芸術に偏っていったと言います。
それらの関心が向かう先が、フランスのパリです。
ロスト・ジェネレーションと呼ばれた彼らもパリを訪れ、そこで数々の作家や芸術家との交流を交わしたそうです。
これらの時代は『ジャズ・エイジ』と呼ばれ、その様子はウディ・アレン監督の『ミッドナイト・イン・パリ』という映画でも描写されています。
エリオット
トマス・スターンズ・エリオット(Thomas Stearns Eliot)
イギリスの詩人、劇作家、文芸批評家
エリオットはアメリカに生まれますが、40歳近くでイギリスへと帰化しています。
1948年度にはノーベル文学賞を受賞しています。
代表作:『荒地』『寺院の殺人』『詩と劇』
ジェイムズ・ジョイス
ジェイムズ・オーガスティン・アロイジアス・ジョイス(James Augustine Aloysius Joyce)
20世紀最も偉大な小説家の一人として数えられるが、日本での知名度はあまり高くないです。
アイルランド出身の小説家で、最も有名な作品は『ユリシーズ』でしょう。
この作品はホメロスの『オデュッセイア』をダブリンでの出来事に置き換えた作品です。
その内容は読み進めるのがとても難しく、けれどもとても緻密に繊細に登場人物の心情が描かれいます。
代表作:『ダブリン市民』『若き芸術家の肖像』『フィネガンズ・フェイク』
パウンド
エズラ・ウェストン・ルーミス・パウンド(Ezra Weston Loomis Pound)
詩人、音楽家、批評家
ムッソリーニの支持や反ユダヤ主義を掲げていたために、現在では批判を受けることも多いが、文学界やモダニズムを牽引していたことは事実です。
代表作:『消えゆく光』『ペルソナ』『キャントーズ』
スタイン
ガートルード=スタイン(Gertrude Stein)
アメリカの著作家、詩人、美術収集家
パリに詩人や芸術家のためのサロンを開いており、その活動により現代美術と現代文学の発展を助けました。
ヘミングウェイの『日はまた昇る』でも登場し、彼女のことを文学の師と仰いでいたそうです。
情報量が多くなってしまいましたが、以上がロスト・ジェネレーションについてです。
彼らは激動の時代に生まれ、絶望をしながらも自らの思想を強く持ち、その想いを言葉に表現してきました。